ADS-BT for Vectorworks + Vectorworks活用事例

設計事務所バリカン
中川 純一

ADS-BT for Vectorworks + Vectorworks活用事例

設計事務所バリカン
中川 純一

東京都中野区の設計事務所バリカンは、一級建築士 中川純一氏が主宰する建築設計事務所である。設立は2009年だが、近年は賃貸マンションを中心とする収益物件の分野にターゲットを絞り込み、計画から設計、施工監理までトータルに展開。東京都内23区をフィールドに大きな実績を挙げている。建築設計の中でもこの収益物件の分野は、より収益性の高いボリュームプランと提案スピードの速さが重要になるが、同社は独自の設計スタイルにより豊富なノウハウを蓄積し、顧客の厚い信頼を獲得している。

そして、同社の営業手法の中核にあるのがBIM・CADツール「Vectorworks」とプラグイン「ADS-BT for Vectorworks(以下ADS-BT)」だ。ここではこの両ツールの活用法とそのメリットについて、バリカン代表の中川氏に伺った。

ADS-BT for Vectorworks + Vectorworks活用事例

バリカンはどのような設計事務所ですか

設立当初は個人住宅を中心に扱っていましたが、今は収益物件をメインとする設計事務所になっています。特に扱いが多いのは賃貸マンションです。具体的にいえば、土地情報を得たデベロッパー等のお客様から「この敷地に収益目的の賃貸マンションを建てたい」と依頼されてプランを立てて設計し、施工監理まで行ってお引き渡しする案件が事業の中心となっています。実際、今年16周年を迎える当社がこれまで建てた80棟ほどのうち、約70棟がこの収益物件となっています。この実績はビジネスとしての事務所経営に戦略的に取り組んできた結果です。たとえば当社のWebサイトでの広報も「何でもできます」ではなく「収益物件に強い設計事務所です」と、ターゲットを絞り込んでメッセージしています。

私も学生時代は有名建築家に憧れ「自分もいずれは!」と夢見た時期がありました。しかし、卒業後2年ほど組織設計事務所からアトリエ系までさまざまな設計事務所でアルバイトをし、さらに入所した設計事務所でも木造・鉄骨造・RC造の3つを経験して、さあ独立しようという時になって迷いが出ました。自分は有名建築家になりたいのか、それともビジネスで成功したいのか……私見ですが、無数のライバルを勝ち抜き有名建築家をめざすのは相当ハードな道です。落ち着いて考えると自分にそこまでのこだわりはなく、独立後はむしろビジネス面での成功を追いかけたいと考えるようになりました。そして、たどり着いたのが収益物件だったわけです。もちろんこの分野が簡単に稼げるなんて話ではありませんよ(笑)。

FABRIC東長崎
|用途 : 共同住宅(13戸)|敷地面積 : 110.32㎡|建築面積 : 84.85㎡|建ぺい率:76.92% / 80%|施工床面積 : 559.21㎡|容積率:399.94% / 400%|構造・規模 : RC造・地上7階建て|
北側外観。西側は3種高度斜線により建物が削られている。真ん中がエレベーターホール兼避難上有効なバルコニー。

収益物件分野で設計者が特に求められるものとは

業務の流れに沿って紹介しましょう。まずお客様に「この土地が売りに出るので買わないか」と声がかかります。お客様は判断材料を求めて「この敷地にどんなボリュームの建物が建てられるかチェックしてほしい」と設計事務所に依頼。私たちは土地情報に基づき建物の高さや形状、部屋数を検討しボリュームプランを作ります。当然、部屋数を多く取って収益性を上げることを要求されますが、同時に容積率や建ぺい率、斜線制限、各区の条例等のクリアが大前提。都内は狭小敷地や変形敷地も多く、作業はきわめて難度の高いものとなります。しかも、土地購入はスピード勝負なので1秒でも早く!です。つまり、私たちが求められるのは「規制範囲の中で最大限多くの部屋を取ったプランを、可能な限り早く」となるのです。

お客様が土地を購入し、賃貸マンションの設計を発注してくれなければ、当社の仕事にはなりません(ボリューム出しは無料で請けています。いわば広報宣伝活動なのです)。つまり提出するボリュームプランの内容とスピードは、当社にとって「仕事になるかならないか」を決める最重要な問題。だから私はプランの質と制作スピードを強く意識しています。たとえば普通の事務所はボリュームプラン提出に1週間か、早くても2営業日はかかるでしょう。しかし、私の目標タイムは90分。そう言うと驚かれますが、現在はこれをクリアできており、お客様から「バリカンに頼んでおけば間違いない」とまで言われています。そして、このスピードと品質を実現する上で重要な役割を果たすのがVectorworks + ADS-BTなのです。

Vectorworksで作成した3Dパース

Vectorworks+ ADS-BT無しでは仕事にならないのは何故ですか

ご承知の通りVectorworksは直感的操作と3Dモデリングに優れたBIM・CADツールです。私は大学時代、Vectorworksに出会い、以来ずっと使い続けています。多くの設計事務所や工務店で働いてきた私は、その間さまざまなCADに触れてきました。しかし、どれを使っても結局Vectorworksへ戻ってしまい、他へ乗り換えようと思ったことは独立後も含め一度もありません。それは視覚的・感覚的にわかりやすいUIをはじめ、図面から3Dモデル、プレゼン資料作成まで一本で可能なトータル力という強力な魅力があるから。さらに壁構成要素をスタイル保存し、共有できる壁ツールは革命的で、収益物件をメインとする私にとっては「これなしでは仕事にならない」必要不可欠なメインツールとなっています。2013年には斜線・日影・天空率計算のプラグイン ADS-BTを導入し、これをVectorworksと連携させて積極的に使っています。私にとってこの連携は大成功で、特に収益物件分野ではトータルにこれを活用し大きな成果を上げています。

具体的な活用法ですが、狭小/変形敷地が多い当社の収益物件では、当初からADS-BTによる斜線や日影のチェックが不可欠です。都市計画次第ですが、たとえば敷地の前面道路の幅員が4mで建物高さ10m以内の場合を考えてみましょう。日影をチェックし10m以上が日影規制に当たるとなれば高さ10m未満の計画となりますが、部屋数を取るためボリューム出しではさらに厳しく「攻め」る必要があるわけです。実際、当社には「容積の残りは0.5㎡未満に」という内規までありますが、現実には道路斜線だけではそこまで攻めきれない物件も多いのです。高さをぎりぎり10m未満に設定しようとすれば1.5m程のセットバックが求められますが、これをせずにどこまで建物を前に出せるか追求するしかありません。こうなるとやはり最も効果的なのは天空率の活用で、ADS-BTを使うのが最も合理的という結論になるわけです。

ADS-BT for Vectorworksの使用により、Vectorworks上で天空率の確認が可能

天空率計算はADS-BTでなくてもできるのでは

もちろん斜線や日影、天空率を計算できるツールはADS-BTの他にもあるでしょう。しかし、ADS-BTはVectorworksのプラグインとしてそれらを完全に一体化して使えるので、天空率計算のために別のツールを開いてデータを持っていったり、入れ直したりする必要はありません。いつもの使い慣れたVectorworks上で斜線や日影、天空率を自由に駆使できるわけです。前記のような難題もすぐ解けますし、プレゼンシートも半ば自動で仕上がります。さらに日影図関連の情報や天空率用の3Dデータ等は別レイヤに用意され、いつでも可視化して使えます。このような理想的な作業環境があるからこそ、攻めに攻めたボリュームプランを90分という速さで提供できるのです。Vectorworksユーザーなら、そして収益物件を扱う方なら、天空率もADS-BTも「使わない手はない」と思います。

Vectorworksで作成した白い3Dモデル
仕上げイメージを手書きでスケッチ
再度Vectorworksに戻り仕上げ

もちろんボリューム出し後もVectorworksをトータルに使っています。土地を購入したお客様に依頼されたら、すぐVectorworksに戻り白い3Dモデルを作るのです。この「デジタル白模型」に法規上必要な窓の大きさや、周辺建物の高さの情報も入力して出力。そこへ仕上げ等を手描きしていき、良い感じになったところで再度Vectorworksに戻り、3Dモデルにテクスチャを貼り込みます。もちろん内観も全て仕上げます。こうして3Dモデルが完成したら正しい寸法でどう見えるかチェックしてパースに仕上げ、私の仕事はそこで一応完了。後はこの3Dデータを元に、スタッフがテクスチャ等も確認しながら図面を起こしていきます。裏返せば図面着手前にすでにVectorworksには建物が建っている状態なのです。

事務所としての次なるチャレンジは何ですか

このように3Dモデルを用いた設計を効果的に使えていますが、3Dモデルと図面の連動は万全ではありません。現状は「人海戦術BIM」と言うか、あくまでBIM実現への過渡期のものと考えています。だから目標はまずBIM化ですが、同時に事務所としての戦略も一新したいのです。収益物件は都内でも減少傾向にあり市場は厳しさを増しています。BIM化し業務効率を高めるのはもちろん、新分野の開拓にも取り組む必要があります。いま注力しているのはインバウンド需要を見込んだホテルや民泊等の宿泊施設です。

実はいまも「設計中の賃貸マンションをホテルに用途変更したい」と相談されています。用途変更は法規の壁もありなかなか手強いですが、私は「法規こそアイディア次第で活用できる」と考えており、さまざまな角度から新たな提案を行っています。

FABRIC代々木上原
|用途 : 共同住宅 11戸(1Rx11戸)|敷地面積 : 97.37㎡(29.5坪)|建築面積 : 63.39㎡(19.17坪)|建ぺい率:65.10% / 80.00%|施工床面積 : 225.56㎡(68.2坪)|容積率:199.01% / 200.00%|構造・規模 : WRC造・地上4階建て|

最後に設計者の皆さんにお伝えしたいことがあります。同じように収益物件を扱う設計者でも、天空率を使ってない・活用しきれてない方が結構いらっしゃると聞きました。正直「なんてもったいない!」と思います。天空率の活用は部屋数を多く取れること以外にも、お客様に大きなメリットを生み出します。たとえば厳しい条件の狭小敷地を道路斜線だけで攻めると、どうしても屋根の設計が複雑になりますが、天空率を使ってスッキリ解けば複雑化しません。結果、工期は短縮できるし雨漏り等のリスクも減らせます。お客様にとってみれば良いことずくめです。しかもVectorworksユーザーにはADS-BTという最適な選択肢があるわけです。お客様のためを思うなら、ぜひVectorworksとADS-BTを活用して設計の可能性を拡げていただきたいと思います。

中川 純一

設計事務所バリカン

  • 事業内容 一級建築士事務所/集合住宅(賃貸住宅、デザイナーズマンション等)、個人住宅等の設計・施工監理、リフォーム、リノベーション オフィス、店舗の内装 他
  • 所在地 東京都中野区
  • 創設 2009年11月
【取材協力】
  • 設計事務所バリカン(取材:2025年5月)
  • 文・取材:株式会社ペーパートイズ 柳井完司  写真提供:設計事務所バリカン
  • 記載されている会社名及び商品名などは該当する各社の商標または登録商標です。製品の仕様、サービス内容等は予告なく変更することがあります。

Vectorworks

2D/3Dのシームレスな作図機能に、彩色豊かなプレゼンテーション、リアルなレンダリングなど、デザイナーの設計環境を支援する汎用CADソフトウエアです。

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評価版(トライアル)

Vectorworksの新規購入やバージョンアップをご検討のお客様は、評価版を是非お試しください。使用期限以外、全ての機能をお試しいただけます。

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